数馬くんのことが好きすぎて腹がたつ
「僕にピアノを弾かせてください」
そう校長先生のもとに駆け寄ったのは驚くことに何と数馬くんだった。
皆が息を呑んだ。
思わず私は心の中で呟いた。
えっ、数馬くん、ピアノ弾けるん?
もしかしたら、見間違えなんじゃないかと私は何度も目をこすった。
今の今まで、私は数馬くんからそんな話を一度も聞いたことない。
数馬くん、本当に大丈夫なん?
校長先生が数馬に楽譜をそっと手渡そうとすると、数馬が静かに顔を横に振り「僕、耳で全部覚えてますから──」と柔らかい笑顔を浮かべて断った。
まさかの楽譜なし。
こんな事態を誰が想像をしただろうか。
数馬くんが一礼した後、深く椅子に腰掛をけて、細い指先をそっと鍵盤の上にのせた。
長身の大きな体からは想像がつかないくらいの繊細なピアノの音が流れ始める。
鍵盤の上を長くて綺麗な指が滑らかに動いていく。
心地よくて、優しい音色。
あまりにもその光景が綺麗すぎて途中で歌うのを忘れてしまうぐらい数馬くんの指先に私は見とれてしまった。
ピアノを弾いている数馬くんは時折高校3年生の次元を超えた艶やかささえ感じさせ、そして、時々ふと余裕のあるチャーミングな優しい笑顔さえみせる。