扉 ~カクテルの味は恋の味?~

 次の週の金曜日、真奈美はPortaに来なかった。
 連絡もなく来なかったのは初めてだったのでマスターは心配して電話をしてみた。
 マスターはわざと少し明るい声で話した。
「真奈美ちゃん、風邪でもひいた? 大丈夫? 」
「大丈夫です。風邪ひいていないです。ちょっと岸さんに会いたくなくて・・・」
「岸君今日来ないよ、だからお店においで。今日は真奈美の大好きなコッパがあるよ。」
「・・・マスター優しい・・・一時間後位に行きます。」

「ご心配おかけしました。」
真奈美は前のようにメガネをかけて来た。
マスターは真奈美にコッパと赤ワインを出した。
「はい、真奈美ちゃんの好きな物。」
「ありがとうございます。・・・うーん。美味しい。やっぱり、最高・・・」
「少しは元気出た? 」
「すみません。気を使わせてしまって。」
「あのさ、岸君のこと、聞いていい? 」
「あの~」
「聞いちゃったんだよね。岸君とのやり取り・・・あの夜。」
「そうですか・・・恥ずかしい。」
「話したくなければいいけど・・・」
「いえ、お話します。岸さんのこと、ずっと気になっていました。正直まだ好きかどうか自分でもわからなかったんですけど、真柴さんのこと忘れたかったから、岸さんなら忘れさせてくれるかな、と思いました。だから、思い切ってメガネ外したりお化粧したり、いつもの自分から脱したくて・・・。でも、岸さんからいきなりキスされて。それで、なんか違うって・・・確信してしまって・・・」
「じゃあ、もう岸君は・・・」
真奈美は頭を横に振った。
「わかったよ。岸君には僕からうまく言っとくよ。」
「すみません。お客さん一人失っちゃいますか? 」
「大丈夫だよ。彼には違う曜日に来てもらうから。」
「ありがとうございます。」
その後、岸は金曜日以外に数回来ていたが、その後来なくなってしまったらしい。
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