指先から溢れるほどの愛を
「仕事柄いつか現場で会うこともあるだろうとは思ってたけど、ようやくだな。むしろ今まで会わなかったのが不思議」
「……確かに。でもここで坂崎さんに会うとか、違和感しかないんですけど」
「えー、何で?オレは嬉しいのに」
わざと微妙な表情を浮かべてそう言えば、坂崎さんはふわりと笑って私の頭をくしゃっとする。
……本当は、私だって思いがけずこんな所で会えて嬉しい。でも私の"嬉しい"は坂崎さんの"嬉しい"とは絶対種類が違う。
それなのに何の意図もなく自然とそんなことを言って私に触れて、簡単に私から平常心を奪って行くこの男は全くタチが悪い。
「美湖先輩は坂崎さんとお知り合いなんですか?坂崎さんのヘアサロンって、なかなか予約が取れないって有名ですよね」
その時一緒にケータリングを並べていた四個下で編集アシスタントの舞衣(マイ)ちゃんが、私と坂崎さんを交互に見て小首を傾げた。
「知り合いというか、オレたちなかなか深い仲ですよ?な、ミーコ?」
「えっ⁉︎」
妖艶に口角を持ち上げて私と目を合わせた坂崎さんに、舞衣ちゃんの頬がポッと赤く染まる。