指先から溢れるほどの愛を
「すいませんっ!」
藤川さんは私の二つ上の先輩でクール系イケメン。私が入社二年目の時、榊さんという先輩の異動後に配属されて来た人で、なかなかのドS……いや、自分にも他人にも厳しいタイプの人。
強面であまり愛想がなく、何というか得も言われぬ圧がある。
だから入社して五年、編集者としてようやく一人立ちできたかなと思っている今でも、未だに彼に呼ばれると脳に指令が届くよりも先に反射的に身体が動いてしまう。もはや条件反射だ。
「お待たせしました!……って、おわっ⁉︎」
速攻でラックへ向かいセットアップを掴んで藤川さんの元へ駆け寄った時、あろうことか足がもつれてあっ、と思った瞬間には私の身体はぐらりと前のめりに傾いていく。
「おま……っ!……あっぶねぇ……」
間一髪の所で藤川さんが抱き止めてくれたおかげで何とか転倒は免れた。でも藤川さんの胸に思いっきり飛び込んでしまう形になってしまった。
「すいませ……っ!ありがとうございます!」
「……気を付けろよ」
慌てて藤川さんから離れ、私より20センチは高い位置にある彼の顔を見上げて謝罪とお礼を言えば、眉尻を下げため息を吐かれる。