指先から溢れるほどの愛を
振り返ることは出来ずに鏡越しに彼を見る。
すると彼もまた鏡越しに私を見つめていた。
顔に熱が集まっている自覚はあったけれど、案の定鏡に映る私の頬は赤く染まっていた。
掴まれた手首もその部分だけ熱を帯びている。
「ああ、嘘も方便ってやつな。あんなの断る口実。さすがにポテトサラダサンド食いに行く時間位あるし。……つーか35歳の体力、なめんなよ?」
最後は耳元に唇を寄せて今にも触れてしまいそうな距離で囁くから、私の顔は一瞬で沸騰し、さらに赤くなる。
「〜〜……っ、耳……!」
「ああ、ミーコ耳弱いよな。店でもイヤーキャップ被せる時とか、シャンプーの後タオルで耳拭く時とかくすぐったそうにしてんの知ってる」
「な……っ⁉︎」
鏡越しにニヤリと妖艶に微笑んで、手首を掴んだままなぜかより一層身体を密着させて私の耳に低音ボイスを吹き込んでくる坂崎さん。
腕を掴んでない方の手はテーブルに突き、私を後ろから囲うようにしているせいで身動きが取れない。
「ちょ……っと、近いですっ坂崎さんっ!」
「なに?ドキドキした?」
「〜〜……っ、しっ、してませんっ!」
そんなの強がりだって分かっているかのようにくすくすと空気を震わせるように笑った坂崎さんは、「じゃあまた連絡する」と、再び私の耳元でそっと囁く。
そして鏡越しに蠱惑的な笑みだけを残して去って行ったのだったーーーー。