指先から溢れるほどの愛を

"いらない。これはミーコが一ヶ月頑張ったご褒美だと思え"


初回払おうとした私に当たり前のようにそう言うから、


"坂崎さんそれは甘すぎません?もっと商売っ気出した方がいいですよ!"

"オレ、売れっ子でそれなりに稼いでるから問題ない"


食って掛かった私にしれっとそう言って、結局頑として受け取ってくれなかった。

そうだ。料金はいらないからその代わりその後缶ビール一杯だけ付き合って、そう言われて始まったのがあの時間だ。

その話を聞いた藤川さんは、何故か深いため息を吐いた。


「お前さぁ、それって……」

「ミーコ」


いつの間にかお店の前に到着していたらしい。
坂崎さんが店先から出て来て私を呼んだ。


「遅いから心配した。何で藤川さんも一緒?」

「あっ、すみません!傘持ってないのに思いの外雨が酷くなっちゃって、たまたま会った藤川さんにここまで入れて来てもらったんです。藤川さん、本当にありがとうございました!」

「……いや」

「そうだったの。それはわざわざどうもありがとう。じゃあミーコは先店に入ってな」

「え?でも」

「いいから中入って頭拭いとけ。タオル出してあるから」


有無を言わせないその雰囲気に、私はもう一度藤川さんにお礼を伝えて渋々店に入った。
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