指先から溢れるほどの愛を
「オレは、ミーコが好き」
言った後、ふわり優しく微笑む坂崎さんに、恥ずかしさよりも何よりも胸の奥から込み上げてくるものがある。
「……これは夢ですか……」
「ふ、だから素直に受け取れって」
坂崎さんが困ったように眉尻を下げ、私の両頬をびょーんと摘む。
「だって……!」
ずっと、坂崎さんにとって私は客の一人でしかないと思っていた。
出会い方は特殊だったし、この五年、月一で通って一緒に缶ビールは飲むけれど外に飲みに行こうとは一度も誘われたことはない。
私たちの関係は、ついこの間までいつだってお店の中だけで完結していたから。
だからこそ私はこの気持ちを悟られないように、居心地の良い距離感を守って来た。
だけど、思いがけず坂崎さんがこの距離を飛び越えて来てくれた。この気持ちは一方通行じゃなかった。
だから私も伝えたい。積もりに積もったこの気持ちを彼に。
「坂崎さ……っ、へっ、へっくしっ!」
その時、ぶるっと身体が震えてくしゃみが出てしまった。出る直前、咄嗟に髪を拭いていたタオルを口元に当てるのは間に合った。