指先から溢れるほどの愛を
エピローグ
「ーーー………ミーコ。」
「ーーー………ん……」
意識が夢と現実の狭間をふわふわしている中、耳に馴染んだ低くて穏やかな声が私の鼓膜を小さく揺する。
彼とお付き合いするようになって2ヶ月ほどが経ち、季節は梅雨真っ只中。
会社にも近い坂崎さんのマンションにお邪魔することが増え、今ではもうすっかり自分の家のように寛いでしまっている。
「まーたソファーでうたた寝して。いくらあったかくなってきたからって、こんなとこで寝てたら風邪引くぞ?」
「………ん〜………」
うっすら目を開くと、レトロな照明から漏れる柔らかな光をバックに腰を折って私を覗き込む三白眼と目が合った。
アッシュグレーの髪がその人工の光に透けて、キラキラしてる。
眩し……。
「……また髪も生乾きだし。」
ソファーの上から無造作にこぼれ落ちる私の髪を掬って、彼はその三白眼を細める。
「ったく、世話の焼ける………。」
呆れの中に優しさを滲ませたその言葉のあとに続くセリフを、私はもう知っている。
「ちゃんと起きろ。そしたら乾かしてやる。」
「………はーい。」
にやける顔を眠い目を擦るふりで誤魔化し、むくりと起き上がって膝を抱えて座る。