悪役令嬢の幸せ愛人計画〜王太子様に(偽)溺愛されています〜
 経費とは言っているものの、ユリアーネに初期投資はしてくれるらしい。しかも莫大な金額。

 やはり都合の良い話である。

 平民の母親が公爵を射止めて妾になったものの、ユリアーネ自身は母親よりも容姿では劣る。一目惚れされる見た目でもないし、アンゼルムは見向きもしなかった程だ。

(も、もしかして……、人には言えないような性癖を持っているのかしら……?お妾さんってそういう役割って役人が言ってたわ……)
 社交界の闇である。もっとも、ユリアーネは地獄耳で聞いていただけだが。

「なんかろくでもない事を考えてそうだけど」
「そうでしょうか?」

 察しの良いリーヴェスに、ユリアーネは若干引きながら笑みを作った。
 納得だ。こんなに顔も地位も財も持っている男が、わざわざ愛人を探してお金で買う理由。

 つまり、とんでもなくヤバい性癖を持っていて、それを表沙汰にすると不味い、といった所ではないだろうか。

 契約書までサインさせて、逃げられないと宣言までされているのだ。そこまでガチガチにユリアーネの逃げ道を塞ぐ必要があるという事。

(私には……荷が重すぎるのでは?)
 男女関係の云々に至っては、雛鳥どころか卵レベルのユリアーネである。ご満足頂けるような技術等ない。まずプロである娼婦ですら、リーヴェスのお眼鏡にかなっていないのだ。よっぽど、大変な趣味をお持ちだと考えた方が良い。

(だけど、私が賞金首という事さえバレなければ、隣国も王子の愛人の私に手を出せないだろうし、逃げ回る心配もない……)
 痛いのは嫌だが、死ぬよりはマシである。ユリアーネも覚悟しなければならない。どの道、逃げられそうにないのだから。

「そうそう。君を買った理由だけど、」

 タイミングが良いのか悪いのか、リーヴェスが軽い調子で口を開く。ユリアーネは無意識に体に力が入った。
(待って、まだ聞く覚悟が……!)

「痛いのだけはやめて頂けると……!」
「俺、実は婚約者いるんだよね」

 被った言葉が理解出来ずに、一瞬静寂が訪れた。

「えっ」
「え」
< 16 / 40 >

この作品をシェア

pagetop