悪役令嬢の幸せ愛人計画〜王太子様に(偽)溺愛されています〜
 もう寝るつもりだったのだろう。夜着だけのリーヴェスは、焦りを見せずにユリアーネの元へ行く。

「……これはまた、随分と愛人に入れあげてるようで」

 コルネリウスは兄の様子に僅かに怯んだ。が、それには頓着せずにリーヴェスはゆるりとした笑みを浮かべる。コルネリウスから隠すように、ユリアーネを抱き寄せた。

(ちょ……?!)
 ユリアーネは思わず突っぱねそうになったが、我慢した。一応恋人同士の設定なので。
 リーヴェスは動揺などお構いなしに、彼女の薄茶色の髪の毛に指を絡める。

「……そうだね。お前に見せたくないくらいには」

 ヒュウ、と揶揄うようにコルネリウスは口笛を吹いた。

「お熱いですねえ。ま、兄上の惚気ける貴重な姿が見れたので、今日の所は大人しく帰ります」
「いや、もう来なくていいよ」

 軽く手を挙げて、コルネリウスはバルコニーの手すりに足をかける。来た道をそのまま引き返すつもりなのだろう。それを見たリーヴェスは渋い顔になった。

「あいつは窓から入ってきたのか……。随分と身軽だな」

 小声で複雑そうに呟く。そして、その後にイルゼとパウラに命令した。

「ありがとう。今日はもう下がっていい」

 イルゼとパウラが頭を下げて退出したのを見届けて、ユリアーネは警戒心を解くように息を吐く。

「ありがとうございます、リーヴェス様。助かりました」
「何もされなかったかい?」
「ええ、大丈夫です。いきなり入って来られたのは驚きでしたが……」

 ユリアーネが何もされていない事にリーヴェスは安堵する。
< 35 / 40 >

この作品をシェア

pagetop