悪役令嬢の幸せ愛人計画〜王太子様に(偽)溺愛されています〜

愛人契約

 謹慎中、公爵家の城の隠し通路から脱出した。
 全く謹慎も反省もしていない行動ではあるのだが、王族に危害を加えた人間は良くて死罪。悪くて――、口にするのもおぞましい目に遭わされる。
 生きる為には逃げる一択である。

 途中、賄賂として装飾品を渡し、隣国に密入国出来たはいいものの、身分と本名を隠した身元不詳人を雇ってくれる場所などほとんどない。

 だが、運がいいのか悪いのか、城下町の酒場のウエイトレスの職を得て少しは生活が安定した――と思いきや、
 今度は同僚の借金の連帯保証人にされていた。

 肝心の同僚は逃げた後の話である。

 婚約破棄されて逃亡し、逃亡先で借金を背負わされ……、自分の不運さが恐ろしい、とユリアーネは思ったものの、嘆いていても仕方がない。
 借金は少しずつ返してはいるのだが、元の額が多すぎて返済が追い付かないとは感じていた。

(でも、職場の酒場まで取り立てが来てしまうなんて……)

 酒場は静まり返り、先程まで顔を赤らめて大騒ぎをしていた酔っ払い達も固唾を飲んで見守っている。
 ユリアーネは困り顔で、先程とんでもない2択を突き付けてきた男を見た。

 星屑を集めたような金髪。紅玉のような瞳。白い肌は手入れがされているのか、シミ一つない。大層目を惹く容姿の男は、余裕そうな表情で椅子に腰掛けている。
 場の雰囲気を全て持って行った男に、高利貸しは気分を害したように眉を上げる。そして、男が座っているテーブルを叩いた。大きな音が鳴る。そして、凄んだ。

「まずテメェは誰だよ?いきなり部外者が入ってくンじゃねぇ」

 ウエイトレス姿のユリアーネは、お盆を両手で抱えたままオロオロと高利貸しと、派手な容姿の男を見比べる。

「まあまあ、落ち着いてよ」
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