悪役令嬢の幸せ愛人計画〜王太子様に(偽)溺愛されています〜
 そんなユリアーネの狼狽は他所に、金髪の優男はゆったりと微笑む。

「君にとっても悪い話じゃないと思うけどなあ」

 男はユリアーネを片手で示した。

「彼女が俺の愛人になったら、君は彼女が作った借金を全部回収出来る」

 ユリアーネが作った訳では無い。
 そんな事情を知らない男は、もう片方の手で高利貸しを示した。

「彼女が俺の話を断ったら、君は当初の予定通りに彼女を娼婦として連れて行くことが出来る」

 そして、やや目を細めて、緩い弧を口元に浮かべる。

「ほら、損なんて無いだろう?」

 男の有無を言わせぬ気配に、高利貸しは僅かに怯んだ。金髪の男はユリアーネの方へと向き、首を傾げる。

「それで?当事者の君はどうするんだい?その身体を俺一人に明け渡せば、三食昼寝、衣食住付き。報酬として、給金も払うよ」

 テーブルに頬杖をついて、男は僅かに身を乗り出す。ユリアーネは戸惑ったように視線をさ迷わせた。お盆を持つ手に力が入る。

「えっ……と。初めて会ったのに、何故私を愛人に……?」
「そうだな……。ちょうど探していたから、と言った方が正しいかな」

 やや思案するように、男は一瞬遠い目をした。
 ユリアーネは愛人を?と若干ジト目になる。その派手な容姿だと、いくらでも見つかりそうな気はするが。

「それで、肝心の給料だけど、毎月これくらいを考えているよ」

 男は、ユリアーネの目の前にヒラリと契約書を見せる。受け取ったユリアーネは恐れ慄いた。

「こ、こんなに……?!」

(酒場のウエイトレスの10倍……!)
 契約書を持つ手に少しだけ力が入る。
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