プレゼントはワ・タ・シ
「はぁ……今年もゼロか……」
 下校時、靴箱を確認したけど、そこにあったのは見慣れたボクのスニーカー。

 今日はバレンタイン。
 だというのに、僕には毎年チョコなんて一つも届かない。
 カノジョなんても生まれてこの方、ご縁がないんだ。

 まあ毎年母さんからはもらうけど、それはカウントに入らないよね。

「あ、北斗(ほくと)くん」
 後ろから声をかけてきたのは、クラスで一番可愛い、千代子(ちよこ)ちゃん。
 内緒だけど、ボクは千代子ちゃんのことが気になっている。
 優しいし、可愛いし、いつも僕に声をかけてくれる。
 ただ、ボクを見かけたときに挨拶してくれるぐらいの仲で、親身な仲じゃない。

「千代子ちゃん……どうしたの?」
 彼女の大きな瞳を見るだけで、ボクの身体は震える。
 ボクは恥ずかしがり屋で、特に女の子の前だと緊張しちゃうんだ。

「北斗くん、今日チョコもらった?」
 ドキッとした。まさか、千代子ちゃんからもらえるのかな?

「ううん、ボクなんか毎年ゼロだよ……」
「そうなんだ……じゃあ、また明日ね☆」
「え…うん、バイバイ」
 なんだよ。期待しちゃったじゃん。


「おかえりなさい」
 母さんが玄関までわざわざお出迎え。
 手の平には包装された四角形の箱。

「ただいま」
 ボクは千代子ちゃんから思わせぶりな態度をとられていたので、少しイライラしていた。

「はい、北斗のぶん」
 やはり中身はチョコか。
 母さんには悪いけど、思春期の息子なんだから嬉しくないよ。
「ありがと」
 少し乱暴に受け取ると、ボクは自室にこもるとゲームをはじめた。
「毎年、毎年、バレンタインなんていらないんだよ」

 ~数時間後~

 ピンポーン!

 チャイムが鳴った。
「北斗、出てちょうだい!」
 リビングから母さんの声が聞こえた。
 なんだよ、今いいところなのに……。
「母さん、今忙しいの!」
 きっと揚げ物でもしているんだろうな。

「仕方ないな」
 ボクはため息をつくと、自室から出て、リビングのインターホンのボタンを押す。
 モニターにはうつむいた少女が映し出された。
 こげ茶のトレンチコートを羽織っている。

「はい?」
 ボクが応答すると、少女は顔をあげた。
「あ……北斗くん?」
「ち、千代子ちゃん!?」
 ボクは驚きを隠せなかった。

「いまあけるよ!」
 急いで玄関に向かう。

 扉を開くと、千代子ちゃんが待っていた。
 寒いのかガタガタと震えている。

「寒いの?」
「う、うん……」
「なにか用?」
 理由はわかっているのに、ボクはあえて問いかけた。

「北斗くんにもらってほしいものがあるの」
 来た、来た~!

「な、なに?」

「これ、私からのプレゼント」
 千代子ちゃんは何を思ったのか、寒いのにトレンチコートのボタンを外し始めた。
「?」

「はい、とけるまえに食べてね☆」
 コートを脱ぎ捨てると、そこには生まれたばかりの姿の千代子ちゃんがいた。
 裸なんだけど、ひとつ違うところがある。

 全身真っ黒。
 チョコレートでコーテイングしている。

「ち、千代子ちゃん?」
「はやく食べて……とけるまえに」
 なんだか、優しい千代子ちゃんじゃないよ。

「一晩中考えて……北斗くんにあうプレゼントは『これ』だと思ったの……大好きだから」
「え……」
「さあ早くワタシを食べて☆」
 
   了
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