一途な淫魔の執着愛〜俺はお前しか一生抱かない〜
 店売りのケーキを並べ、十時開店。いつもの倍以上のお客さんがゾロゾロと店に入ってきた。


「はい、中村様ですね。ご予約のケーキはこちらになります」
「はい、松田様ですね、ご予約のケーキはこちらになります」
「はい、髙林様ですね。ご予約のケーキはこちらになります」


 同じフレーズを何度も何度も繰り返す。たまに店売りのケーキが売れてと大忙し。洸夜のことを考える暇もなく午前中が終わろうとしていた。
 お昼になるとお客さんの足も少し途絶えてきたのでホッと一息、今のうちに交代でお昼を食べることにし、先に年配序列ということで健がスタッフルームにふらりと消えていく。


「やっと落ち着いてきたわね」


 いつも完璧メイクの綾乃のアイメイクが少しよれている。それほど今日は忙しいのだ。


「だね。あとは夕方のピークと夜の路上販売だけか……」
「路上販売……」


 綾乃と二人で体内の臓器が出てきそうなほど深い溜め息をついた。口に出しただけで身が震える。夜の極寒の寒さの中なんで路上販売なんか……と愚痴りたくなるが、これまた効果は絶大で、店の中には入ってこないけれど、外でふとケーキをみると買いたくなってしまうという人間の心理なのだろうか。店内で売れなくても外で販売するとたちまち売れてしまうというクリスマスマジックが起こるのだ。


「嫌だけど、売れるのよねぇ……」
「そうなんだよね。なんなのかな、本当。クリスマス怖い!」
「とか言って、今日の夜はやっと会えるんでしょう、社長に」
「ま、まぁそうなんだけど……」


 やっと会える。しっかりと洸夜に会うのはいつぶりだろう。向こうも仕事が忙しいらしい。やはり恋人たちの一番盛り上がるイベントのクリスマスだ。婚活会社も大忙しなんだろうなぁと。だって夢にもまるっきり出てこないんだから!!!


(なんだか私だけが会いたいみたいで悔しいじゃない……)


 年甲斐もなくむぅっと頬を膨らませたくなった。
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