イジワルな君の一途で不器用な恋心
停車のアナウンスが流れる中、暴れる心臓を深呼吸で落ち着かせる。
「取れたぞ」
駅に停まったタイミングでようやく髪の毛がボタンから外れた。
「ごめん、ありがとう」
「いいって。俺が後ろにいたせいだし」
乗客が減り、隣に移動してきた雷夜。
だいぶ緊張は抜けたけれど、まだ顔は直視できず。窓に目を向けたまま会話を続ける。
「古松さんのと形が似てたけど、教えてもらったの?」
「うん。崩れにくいって言ってたから気になって。毛量多いから不恰好だけどね」
「そうか? 上手くできてんじゃん。似合ってるぞ」
茶化されると思ったが、返ってきたのは褒め言葉。
あぁ、また柄にもないことを……。
ねぇ、一体今日はどうしたの? 低気圧で頭やられておかしくなった?
まさか、私の知らないところで取り返しのつかない失敗をして、許してもらうために優しく接してるんじゃ……。
「あり、がとう」
「ふはっ、片言じゃねーか。なに、照れてんの?」
「ち、違うわよっ! いきなりだったからビックリしてるだけ!」