イジワルな君の一途で不器用な恋心
エンジンがかかり、後ろの持ち手をギュッと握る。
改めて思うけど、一ノ瀬くん、肩幅広いよなぁ。
このリュック結構大きめなのに、背中にすっぽり収まってる。
形といい色合いといい、なんだか……。
「──……さん、朝日さんっ」
右足をポンポンと叩かれて我に返った。
「ごめん、どうした?」
「今から出発するよって。呼んでも反応ないからビックリしたよ。どうかした?」
「ううん。ちょっと妄想の世界に行ってまして……」
「妄想? 雷夜のバイクに乗る妄想してたとか?」
「っち、違うよ! 雷夜じゃなくてゴリ……」
口をつぐんだが、時既に遅し。大きな背中が小刻みに揺れている。
「……ごめん」
「いいよいいよ。ふふっ、妄想爆発してのぼせないよう気をつけてね」
漏れ出た笑い声。体温が急上昇した。
汗と湿気でジメジメしてるけど、顔から火が出そう。
私ってば、なに人様のバイクで妄想繰り広げてるのよ……!
一ノ瀬くんは人間! 同じ哺乳類でもゴリラじゃないのよ!
再び前方から確認する声が聞こえてきて、今度こそしっかりと返答。
バイクの走行音で脳内に浮かぶシルバーバックを消し去った。