イジワルな君の一途で不器用な恋心

その瞬間、自分の入学当初を思い出した。


自分なりの親しみやすい表情、振る舞い方を研究しては実践して。

毎日不安と恐怖と闘いながら、常に笑顔で交流していた。


全ては、容姿の印象で誤解されないために。



「先輩だから、多少媚を売ってる部分もあるかもしれないけど、自分を知ってもらうためにアピールしてるんじゃないかな。その子、別の地域から来てるんだよね?」

「うん。一ノ瀬くんが昔住んでた大きい町から来てるって」

「マジか。ならアピール説が強そう。俺、高校入るタイミングで引っ越してきたんだけど、誰もこっちの学校受けなかったからさ」



雷夜に会うまで独りぼっちだったんだよね。

笑って付け足した一ノ瀬くんだけれど、どこか切なげに見えて、胸がキュッと締めつけられた。


一ノ瀬くんとは違い、私は住居を転々としたことはない。

けど、知り合いゼロで独りぼっちだったのは一緒。


振り返ってみたら、私も似たようなことしてたじゃん。

犬とゴリラのマスコットをバッグにぶら下げて、みんなの好奇心をくすぐって……。


もう何ヶ月も一緒に通学してるのに、なんで気づかなかったんだろう。
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