イジワルな君の一途で不器用な恋心
「ん……?」
バッグを漁っている最中、一瞬、不審な人物が視界の端に入った。
ドアの近くに立つ中学生くらいの女の子。
その背後には、帽子を被った男の人がピッタリと密着している。
えっ……まさかあれって……。
目を見開いたその時、ガタンと車内が揺れた。
やっぱり……やっぱりそうだ! 電車の揺れに合わせてお尻触ってる!
決定的瞬間を目にし、痴漢だと確信した。
えっと、こういう時はまず、車掌さんに伝えるんだっけ。
『不審な人物を見かけたらお知らせください』ってアナウンスしてるの、毎日何回も聞いてるから。
キョロキョロと首を動かして車掌を探す。
……しかし、それらしき人は見当たらず。
そんな……これじゃ助けられない!
どうしよう、他の人に助けを求める? でも、結構混んでるから周りの人も気づいてなさそう。
というか、そもそもどう声をかければいいのか……。
モタモタしていると駅に停車。結局何もできず、人々の波に押されるように電車を降りた。
あの子、大丈夫かな。誰かが気づいてくれるといいけど……。
改札に向かうも、足取りが重い。
ダメだ。このままだと罪悪感が増す。
これ以上被害者を出さないためにも、駅員さんに伝えてから帰ったのだった。