イジワルな君の一途で不器用な恋心

私も何度か行ったことがあるんだけど、とにかくお店が多くて。お目当ての店舗にたどり着くまで1時間かかった。



「平日ならいいかもしれないけど、休日も働くなら近所のほうがいいと思う。初めてで往復1時間は大変だろうからさ。家の近くにお店ない?」

「あります。でも、同級生に会いそうで……」

「あー、なるほどね。それなら短期バイトはどう? GW限定とか夏休み限定とか。あの地域なら山ほど求人ありそうだし」



親切丁寧にアドバイスする雷夜。バイト歴3年目だからか、妙に説得力がある。


雷夜も1年生の頃、『バイクのために稼ぐ!』って、通学圏内の求人に片っ端から応募しまくってたっけ。

熱心に教える様子から、自分と同じ苦労を味わってほしくないという気持ちが伝わってくる。


聞き耳を立てていたら信号が青に変わった。横断歩道を渡って駅の中に入る。



「んじゃ、俺らはこのへんで」

「今日は本当にありがとうございました」

「こちらこそ。見学しに来てくれてありがとう。またいつでも来てね!」



笑顔で手を振り、事情聴取に向かう2人を見送った。

対面式と部活紹介に出るために一時中断したとのことで、これから続きを受けるらしい。


高校生最後の年、平和に過ごせるのを願ったはずが、開始早々大事件に出くわすとはね。


古松さん、ピッタリなバイトが見つかるといいな。

どんな目的でなのかが気になるけど、人それぞれ事情があるだろうし。温かい目で見守ろう。


新しく追加された彼女の連絡先に、歓迎メッセージとチワワのスタンプを送った。
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