イジワルな君の一途で不器用な恋心

と、強気で腕に力を込めるも……全然動かない。


身をよじってみても、反動をつけてみても。

まるで手首だけが壁に縫いつけられているような感覚で、微動だにしない。



「あれ? 手こずってんの? ヒョロヒョロ相手に?」

「っ、なわけないでしょ」

「じゃあその顔は? またドキドキしてるとか?」

「それも違うっ」



顔を覗き込まれて熱が一箇所に集中。意地の悪い表情から視線を逸らす。


いつかの満員電車に乗った時と同じシチュエーション。耐性はついてるはずなのに。

首元から香ってきた石鹸の匂いが鼻腔をくすぐって……。



「っ……調子に乗んな! この泣き虫ピンシャーが!」



勢いよく膝を持ち上げ、彼の下腹を攻撃した。



「おま……っ、膝は卑怯だろ……っ」

「力で縛りつけてきたあんたがそれ言う?」
< 61 / 314 >

この作品をシェア

pagetop