俺はきっと、この出会いを恋と呼ぶのだろう。
「シオン、昼はどうすんの?」

アユムが、背伸びをする俺にいつものように声をかけてくる。

「パン持ってきたから、適当に食うよ」

俺はいつも、昼は適当な場所に行って、一人でご飯を食べる。
短い昼休みに、ゆっくり休むためだ。

アユムは、毎日誘ってくるが、いつも俺はそんな誘いを軽く断っている。
アユムは、はいよっと言った感じでそれ以上は追求してこない。

その距離感も、アユムは守ってくれている。
少しだけ悪いような気はするけれど、無理に付き合うのも悪いような気がした。

持ってきたパンと、途中で買った水を持って、なんとなく教室を出た。
毎日、特に場所を決めているわけじゃない。

ふらふらと歩きながら、なんとなく場所を決めている。
廊下を歩きながら、今日はあまり空いている場所が見つからなかった。

見つからないなと思いながら、廊下の終わりまで来てしまった。
ここまで来ると、理科室や音楽室のエリアになって、あまり人はいない。

屋上に続く階段で、俺は座って食べる事にした。
教室の方は騒がしいが、ここは静かだった。

こんな近くに、穴場があったのかとラッキーな気分になっていた。
パンを食べ終わると、俺は腕を組んで、壁にもたれて目をつぶった。
少しだけ眠っただろうか、ふと目を覚ますと、目の前の教室に電気がついているのに気がついた。
ここに座った時は、どうなっていたかも意識しなかった。

なんとなく気になって、教室の中を座ったまま覗いてみた。
そこには、何かに向かっている一人の女の子が座っていた。

短くて、とても綺麗な黒髪だった。
何をしているのか見ていると、一心不乱に何かを描いていた。

入口の札を見ると、そこには美術室と書かれている。
部活にも興味がなかった俺は、この学校に美術部がある事も知らなかった。

そもそも、目の前にいる子が美術部なのかもわからない。
それでも、今までに絵に興味も持った事がない俺には、とても新鮮で興味を抱く光景だった。

絵を描いている姿なのか、絵を描いている子になのか、それは分からない。
相変わらず、座って腕を組みながら、目の前の光景から目を離せなくなっていた。

一度もこちらを振り返る事もなく、その子は昼休みが終わるまで目の前の絵に集中していた。
それを見ていた俺も、いつの間にか時間が過ぎている。

気がついた時には、5分前のチャイムが鳴った。

俺は、その音にハッとした。
それと同時に、美術室の子が振り返った。
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