俺はきっと、この出会いを恋と呼ぶのだろう。
鋭い視線が、俺に向けられた。
丸メガネの奥から見える目は、真っ直ぐ俺に向けられていた。

俺は、チャイムに反応したまま、体が固まってしまった。
頭の中では、状況を把握しようと、必死にフル回転させていた。

美術室の前で、隙間から真っ直ぐ見ている男。
たまたま居合わせたとは言い訳が出来ない。

目の前の階段に座っている自分。
必死に何もない表情をしながら、ゆっくり立ち上がる事しかできなかった。

何かを言われたらどうしよう。

そんなふうに思いながら、何食わぬ顔で立ち上がる。
自然だったどうかは、自分ではわからない。

ちらっと彼女の方を見ると、軽くため息をついているように見えた。
これ以上見ているわけにはいかない。

そう思った俺は、そのまま自分の教室に向かった。
俺のクラスは1年1組。

そこまで歩いた俺は、ふと後ろを振り返った。
あの子は、5組の教室に入って行った。

俺の事ははっきり見ていたし、変に思われてしまっただろうか。
もやもやした気分のまま、俺は教室に戻って行った。

分かった事は、昼休みに美術室にいる事。
5組に入って行ったという事は、同級生である事は、間違いなかった。
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