俺はきっと、この出会いを恋と呼ぶのだろう。
この日の午後は、いつも以上に授業が入って来なかった。
思い描くのは、昼休みに見た光景だった。

自分に向けられた鋭い視線。
一心不乱に絵を描く姿と、彼女が振り返って見えた目が、俺の頭の中から離れる事はなかった。

どこか、他の生徒を遠く感じていたのに、彼女だけは、俺の中にはっきりと存在を示された。
今まで、誰かを強く意識した事はない。

恋愛に興味が全くないわけじゃないが、どこか自分には関係ない事だと思っていた。
特定の誰かを意識する事は、これといってなかったからだ。

だからこそ、強烈に脳裏に焼き付いた彼女に、これが恋愛なのか判断できなかった。
好きと言う感情かは、まだ俺には分からない。

だけど、彼女の姿が、とても美しかった事だけははっきりと理解していた。
頭から離そうとしても、こびりついて離れない。

この時胸に当てた手に、強い鼓動を感じたのを、今でも僕は覚えている。
先生の声以外、静かな教室で、この鼓動が聞こえてしまうんじゃないかと、ぐっと胸を押さえていた。
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