傷つけて、もっと求めて【完】
「今日も家に行っていい?」と聞く俺に「知らない」と言ってそそくさと家に入って行った。
何か間違いを起こしたらしい。
一度自分の家に帰ってから、タブレットを持って彼女の家に向かう。チャイムを形式程度に鳴らしてドアを開ける。彼女の親は共働きで夜が遅いから平日はいつも1人だ。
すでに着替えていた彼女がコップ2個出してお茶を注いでる。それを見た俺はほっとして、ソファに座りタブレットで有料動画視聴コンテンツを開いた。レンタル屋が近くにあるけど、これの方が作品数が多く安いので重宝している。
お茶を持ってきてくれた彼女にお礼を言い、「何見る?」と聞くと「なんでもいい」と言うので、少しのいたずら心で二つに絞られた作品のうちの一つを選んだ。
あまり有名ではないホラー映画だけど、ミステリー要素も含まれていて面白いのだ。冒頭から何やら不穏な雰囲気を漂い始めたそれに、何か気づいたのか「ねぇ」と不審そうに睨んできたので「ん?」と知らない振りで答えて「ほら、始まったよ」と促すと、確信したように「ふざけんな!」とギロッと睨まれた。
彼女は俺の言動を全て把握しているように嘘をつくとすぐにバレる。嘘発見器をつけているような気分で、でも少し高揚感を感じるのは嘘発見器なんて普段つけないから。実際に嘘発見器をテレビでしか見たことがない。
少しの動揺の隙でタブレットが彼女の手に渡っている。彼女がタブレットを振り上げようとしている腕を掴んで、「それは危ないから」と言う俺を無視してタブレットを投げつける。俺はそれを器用にキャッチして安堵した。
「わざとだろ、楽しいのかよ!」と瞳をうるうるさせて、いつもより低くなったら可愛らしい声で暴言を吐く。
「うん、楽しい」と笑うと、「全っ然楽しくねぇ!!」と俺の肩や胸をポカポカと殴る。女子だけど高校生で力はあるので普通に痛い。そんな彼女の拳をゆっくりと握って少し赤くなった手の甲を撫でる。
「じゃあ、こっちにしよ」と、もう片方の彼女の好きな方を選択した。動物のドキュメンタリー映画で、野生動物の1年間をカメラが追った作品。
彼女は躍動感のある動物の生活にビクビクして、愛らしいドジにクスクスと笑い、動物の生き様に涙を流した。比較的平和な動物のドキュメンタリーでこんなに感情を露わにできるのはきっと彼女くらいだろう。
終わった後に「面白かった!!」とキラキラの笑顔で言われて、やっぱり今日も楽しいと思った。