傷つけて、もっと求めて【完】
***
今日も彼女の両親が遅いので一緒に買い出しに出かける。お金は俺がご飯代として父親から毎日支給されているお金だ。
「何食べたい?」と聞くと「オムライス」と答えたので、その材料を買いに行くことになる。たばご料理は最近食べていないので材料が何もない。
スーパーは徒歩15分のところにあり、ギリギリ徒歩で歩いてもいいかなと思う程度の距離。夕方ということもあり混雑している。
そっと彼女の手を取って「迷子にならないでね」と笑うと、「もうそんな子供じゃないし!」とギュッと握り返された。
カートを押して材料のカゴの中に適当に放り込む。どの野菜が食べごろか同じ野菜たちの中で判断することはできないので、目に止まったものを手に取るという方式だ。大きくて美味しかったら『ラッキー』だし、腐ってたり悪いところがあったら『あたり』だ。
彼女が止まって腕が少し引っ張られた。彼女は黙って楽しそうな親子連れを眺めていた。「行くよ?」声をかけるとまた黙って付いてきた。
オムライスは上出来だった。ちなみに玉ねぎは『あたり』だった。半分も使えるところがなかった。
「美味しい」
「うん」
「玉ねぎの切り方もよかったんだよ」
「炒め方も」
「卵も最高」
と自分たちの功績を労った。証拠隠滅のように使ったものを、使っていないかのように完璧に戻して、余った材料を俺が持って帰る。明日は休日で彼女の両親が休みだから俺は彼女のところには行かない。こんなふうに俺の毎日は続いていく。