イケメンを好きになってはイケません⁈
「そこに坐っててね。エアコンつけたからすぐ冷えると思うけど」

 わたしは冷蔵庫からレモン水をだして、グラスについだ。

 ミネラルウォーターにスライスしたレモンを入れておくだけの簡単なもの。

 毎夏、母が作っていたので、わたしもなんとなくその習慣を引き継いでいた。

 これは父の好物だったらしい。

 別れた旦那の好物なんて、いつまでも作らなきゃいいのに……
 と、高校生ぐらいのころは思っていた。

 でも、今ならわかる。
 母は別れたあとも、おそらく父に想いを残していたんだろう、と。

 母と比べれば、わたしはまだましかも。
 森下くんのこと、ほとんど知らないのだから。
 家族構成も好物も子どものころの思い出も何もかも。

 だから、濃密な思い出に苦しめられることだけはない。
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