丸いサイコロ
本当はそれほどに、 ぼく以下に、   
なのに。
 どんなに   を甘やかしたって、足を引きずるだけなのに。
やらかしたことを、償えないと おなじことをやらかす。
親だから、と借金を繰り返して、 許されたから、と罪を重ねるんだ。
口先だけで逃げて、いつまでも、泣き喚いて
後戻りできないようなトラブルが起こったとき、絶対に後悔する。

  そんなにいけないことか?
そんなに、価値もない、何もないぼくが、 せめて、出来そうなことを探すことが、それを願うことも、許されないのか。
「今日はなんだか、静かだな」




――お前はさ。学校を出て何をした? 
免許を取って、
借金以外の、何が出来た?
どれだけ恵まれても、親に援助までされても、何も出来ないよな。
欲しい欲しい、やりたい、やりたい、



それで、何が残せた?








 兄の質問に、ぼくを含め、誰も答えられずにいると、まつりが左隣のケイガちゃんを、一方的に質問攻めしはじめた。
目が虚ろだ。久しぶりの外出に疲れてきたのだろうか。
ケイガちゃんは、真面目な表情を崩さない。鍛えられているのかもしれない。

何を話しているのだろうと、最初は笑顔で喋っていたし、気にしていなかったが、だんだん、様子がおかしくなっているのが、嫌でもわかった。

「だから、違うって言ってんだろ!」


ケイガちゃんが声を荒げている。

「嘘をつくな。泥棒のはじまりって、言うだろ?」


まつりは冷静だった。
ただ淡々と彼女を責める。

「嘘などついていない!」

「おまえは、どうして、こんな手の込んだことをしているんだ?」


「――なんのこと?」


「誰かに指示された?」


「だ、だから、なんのことだよっ」

さすがに怖くなって、呼び掛けてみたが、二人とも、こちらに見向きもしなかった。

「誤魔化すなよ」


「――え」

何か言おうとして、ようやく、出てきた言葉はそれだけだった。耳を疑う言葉だ。まさか、彼女がそんなことをするわけがない、とぼくは言いそうになった。
しかし、声が出てこなかった。

「わかっていたなら言って欲しかったものを」


「騙されたふりをしてやるのも、優しさかなって思ったんだ」

まつりはそう言って、ゆっくり目を閉じて深呼吸した。少し疲労がにじむ仕草だ。
兄はいつの間にか何も言わずに、運転を続けていた。ぼくは、どうしたらいいかわからなかった。

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