丸いサイコロ
2
ぼくらの関係というのは、つまり――どういったことになるのだろうか。
実際、ぼくもよくわからない。なんでもいいや、とも、思う。
友達、と心から呼ぶ気は無いし、恋人なんてものには程遠いどころか、嫌悪が生まれかねないし、知り合いといえばどこまでも知り合いだった。
同居人ではあるけれど、話したくないことは話さないし、長年一緒だが、相手の行動から読める心理も、ほとんど無い。
たぶん、似て非なる。そんな感じ。
「ナナトはどの服がいいと思うんだ?」
クラッカーを台所の戸棚に戻しつつ、隣にある干し椎茸の袋を落としてしまったぼくに、戻ってきたまつりが駆け寄ってくる。
赤いワンピースと、黄色いワンピースと、青いブラウスと、くまさんのキャラクターがついたパーカーを両腕で持っていた。
一応言っておくと、まつりはまつりであって、男性でも女性でもないらしい。ただ、あまりその話はしない。難しいことはわからない。別にどっちでもいいかなあ、などと、ぼく自身は思う。
いろんな人によれば、中性的な魅力があり、声もそんな感じらしいが、よくわからない。本人はとりあえず、なめられるのが嫌だと、睨むように努めている(つもりのようだ)。
目元も、無意識にぼやっとしているときはキラキラの光彩が潤んでいて、一見すれば癒し系。
……一見すればの話だが。
……さて。どの服がいいのか。――ここで、どれでもいい、と言うと機嫌を損ねるだろう、とぼくは判断して、目についた順で答えた。
「……くまさんのやつ」
「わかった、これで三択になった」
くまさんは投げられた。
「じゃあ、青……」
同じく、ブラウスも放られた。
「よし、二択」
「……どっちも」
「わかった。今着てるシャツに上着を羽織る」
「そう」
《ぼくの選ぶ物は、その日一日縁起が悪く、選んではいけない!》ということのようだった。別に構わないが、ちょっとだけ切ない。
「じゃあ、着替えの時間がなくなったから、行こ」
まつりは笑っていた。ただそれだけだった。なのに、何かが違う気がしてしばし見つめてしまう。
「……何? まつりの顔が、二つに増えてる?」
「増えてない」
佳ノ宮まつりは、ぼくの返事に、興味も無さそうに、台所を通りすぎて玄関まで進み、ぼろけた緑のスニーカーを出す。悪気があるのではなく、もともとそういうやつだ。
上着を忘れているぞ、と思っていたら、よく見ると腕に薄手のカーディガンを持っていた。
「行くか……」
一階にある部屋から財布と手袋とマフラーを持って来て、ぼくも玄関に向かう。冷たい空気がドアの隙間から入ってきて、春はまだかなあ、と思ってしまった。
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