丸いサイコロ
22.撹乱する隠蔽、価値の存在
<font size="4">22.撹乱する隠蔽、価値の存在</font>
「――なんていうか、相変わらずみたいだね、きみは。途中まで、楽しんでたけど、大事なことが抜けすぎて、もはや、どうにも突っ込めない」
間違いない。この口調は、あいつでしかないだろう。だけど、病院で寝ていたはずじゃ……
「……まつり、お前、なんで」
「ずっと監視していたに決まってるじゃないか」
決まってたのかよ。
「……いや、待って。傷は?」
「あれ? あんなの安静にすれば平気。ちょっと栄養が足んなかったから、ショックが起きただけみたいで点滴打ってもらってきたぜ!」
――なんていうか、よくわからないノリだった。体調回復後なんかは、だいたい、こんなノリだ。むしろ、調子の合わせ方を、忘れているのかもしれない。
「えーっと。ぼくのこと、わかる?」
「んー……知らないよ。だれのことも知らない。だけど、別に、どうでもいいよ。そんなの。あっ、燃やしたんだ。そうそう《その手紙》は偽造品ー。本物はね、まあ――秘密かな。用意が大変だったらしいよん。当時のは、ちゃんと《消した》って思ってるはずだもんね。偽物の偽物を。アッハハハ!」
「で、お前……どっから、話してるんだ?」
地下を抜けて、食料庫のドアを開けて出てくると、
廊下に置かれっぱなしの、抽象的な銅像から、溌剌と声が出ていた。悪趣味なスピーカーだ。
「ふふふ、やっぱり、揃えてみると、楽しいなあ。予想外の発言も聞くことが出来たので、満足でーす。ちなみにだけど、そこにあった、ときみが予想したものはないよ。きみを裏切るのも、楽しいからね。気付かれる前に、先回りしてきたの」
「この会話自体が、先回って伝わらないぞ……っていうか、腕に、入院用のブレスレットみたいなの付けてたじゃん! きちんと覚えてるぞ」
なんていうか……ぼくは、手続きや説明の場にはいかなかった。椅子に座っていただけである。
ややこしくなるから、と言われて。
……何がだろう。
「うー。すぐ戻るって」
ぶち、と接続が切れる音がした後、ワインセラーの裏の方から、声がした。
覗いてみれば、ひょこっと顔を出したのは、寝癖で髪が乱れたままの、まつりだった。
「やっほー! ここは、井戸跡があって、外に通じてたんだよ! 点検用梯子つき! 入り口がだめなら裏口っていうだろ?」
「言わない。あー……ああ。裏側に、そんな通路、あったんだ……」