丸いサイコロ
ヒビキちゃんはあまり納得していない。
ぼくも──彼女が何を知りたいのかピンと来ていなかった。
そもそも、昨夜、送っていくにも遅いので、この家に泊まった彼女は、朝早くからぼくらを起こし(ぼくはリビングで寝ていた)、昨日の話をしろと、特にぼくの方に言うので、現在の話合い? がもうけられた、気がするのだが……
なんだか変な空気だった。昨日の話って、昨日は彼女も居たはずだが、たぶん求められているのは、ぼくの考察なのだろう。
「まあ──よくある話だよね。──あ、えっときみが知りたいのは、結局は、彼女たちがしばらくきみに会いに来なくなった間のこと、なのかな」
答えが、返ってこない。
「そもそも、今になってあの事件を調べているのは、なんでかなって最初から不思議だったんだけどさ──そうじゃなくって、彼女が最近まで居たから、なのかな。《きみの家》に。 そして、現在は脱走している、とか。どう? ある日、長年、事情を知らずに彼女をかばっていたきみが知ったのは、榎左記さんが《いなかった》ってことで、エイカさんが《居た》ってこと。だったら、ぼくには分かりやすいんだけど……」
彼女は過去を調べているんじゃなく、現在を調べていて、それはまつりの言った意味の脱走とは別の話──だけど、結果としては同じ点に行き着く話で……
その辺りになってから、ヒビキちゃんはただ、気まずそうに目をそらした。そして、答えではなく、質問をした。そして、少し、小さく、微笑んだ。
「面白い冗談だな。……私は、双子のお姉ちゃんが帰って来ていないと、そう言い続けた。だけど……どちらの意味だと、思った?」
「──両方の意味。じゃなきゃ、あんな顔をしないだろ。ぼくも途中まで混乱してたけど。でもそういう風に言ったのは、知らなかったからかな、あの人が生きてるかどうか。または、あの人たちが言ってたからかな、あの人が死んだって」
「あんな顔?」
ヒビキちゃんは、自覚が無いらしく、首を傾げている。
「……甘いものに飽きたな……カステラ探してくる」
まつりが唐突に立ち上がってどこかに行った。ここは中央にあるリビングだ。奥に行ったので、台所かその辺だろう。
っていうか、お前の中でのカステラは、甘いものに入っていないのか。それとも、甘いもの、が指す範囲が違っているのか。
ついでに切ってきてと言っておく。聞こえただろうか。
ヒビキちゃんは、やっぱりさっきから、不満そうに考え込んでいて、ヒントが欲しそうに感じたので、ぼくは何気なく、呟いた。
「──ああ、そうだ、いいことを教えてあげるよ。あいつに関わったやつの中で《ある条件を満たしていた者》は、大抵が、自殺している。これが、偶然かどうかは、はっきり言えないけど。それから、あいつが何か忘れる前触れには、必ず──」
はっとしたように、ヒビキちゃんが青ざめた。何かを察したのか、何かを思い出したのか、何か不吉な予感がしたのか、それとも。