丸いサイコロ


<font size="5">26.人違いです</font>

 一昨日、私は大型の百貨店の中にある映画館に来ていた。連絡していた人物も、心配していたわりに、そこに来ていたものの……しかしどうやら、そこに行く、という意識だけしか、働いていなかったらしい。

 佳ノ宮まつりはどうやら、私をすっかり忘れていた。《あのとき》に聞いていたのは、本当のことだったのだ。受付で見かけなかったら、どうなっていたかと思う。

 しかも、知らないやつと二人で入っていく……と、思ったところで、あれ? と思う。
なんだか、視界に、ちらちらと見たことがあるようなやつが映っている。
そいつが近づいてきて、私の肩に手を置いた。
なんだ、肩叩きでもしてくれるのか? それなら、是非とも遠慮しておきたい。
「おれの妹!」

にっこにこで、じゃらじゃら趣味の悪い金属を身に付けた男が私に笑いかけてきた。ちょっと薄暗いし、見間違えに決まっている。
むしろ、そうであってくれ。こういう、薄暗い場所で人に会うのはただでさえ楽しくない。


「あれ、偶然の再会なのに冷たいでちゅねー? 相変わらずツンツンしててかんわいい」

 ……ドン引きだ。
その台詞は、本気で喋ってるのか?

「……っ、いっ……妹!? ひとちぎゃいっす」

噛みまくった。泣きたい。よしよしと撫でられかけたので全力で避ける。
慣れ慣れしい。しかし、この声というか……聞いたことはあるんだよな。
 実は、あんまり直視していなかった彼を見上げる。受付の、横の方でどうやら、ポスターを見ていたらしい。

すらっとした体型、やや童顔だが、ある意味大人びた髪型が、それを感じにくくしている。なんかわからない、じゃらじゃらたち。あの余計な装飾が無かったらそれなりに格好いい気がするのに、ドクロだか、星だか、お花畑だか……可愛いものが好きなんだろうか?っていうか。

「貴様、まさか……」

「お嬢様ぁ~、やっほー」

 どことなく時代錯誤な二人の雰囲気に、一瞬周りの視線が集まる。
あははは、お兄ちゃんオモシローイ。適当に冗談めかしていると、視線はすぐに無くなった。 危ない危ない……そうだ、こいつは、私のお目付け役だ。昔はいなかったのに。父さまが言っていた。最近は一人で歩いては危ないから護衛がどうのと。

「って、お嬢様って呼ぶな!」

小声で注意すると抱きつかれそうになった。こいつはそういう教育を受けていないのだろうか?
服装もなんだかボロボロだが……どこかに冒険にでも行っていたのかと聞いてみたい。

っていうかむしろこいつを監視すべきじゃないかと思う。父さまの考えることがわからない。

「お嬢様も貴様、は、やめたほうが良いです」

「呼ぶなとさっき言っただろうが! わかった、じゃあ村人C」


「C!? 村人!」


「黙れC……じゃ、私は行く。もう会うこともないだろう」


「だっからっ、俺、先生に頼まれてるんだって~」

知るか。

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