溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
婚約者。

遠いひと。

朝,私は体内時計を頼りに,パチッと目を覚ました。

…朝? なんか,重たい…

そして自分の腰に回った腕に気がつく。

すると私の首もとで



「…ん…」



という甘い男の声と,くすぐったい髪の毛の感触がした。

ま…さか

私は,嫌な予感に任せて顔だけを後ろに回す。

すると思った通り,あり得ないくらい近い位置にあるその顔は,よく知った人のものだった。

目を見開いて数秒硬直する私。
息も忘れて状況を整理した私は,真っ白な頭で



「っきゃゃゃゃぁあ!」



と,細いけれど近所迷惑だと怒られるに足る悲鳴を,全力で上げたのだった。
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