溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
「それはちょっと,流石に傷つくかなぁ」



嘘でしょ。

そんな風に,凪が柔らかく近付いてくる。

右の手首を持ち上げられて,私は顔をあげた。

次の瞬間,腰をきゅっと寄せられて。

私はトンっと凪に1歩近付く。

その時にはもう,認識できない程近くに,凪の長い睫があった。

感じたことのない感触が,唇に。

目を見開く私のおでこに,ふにゅんと同じ感覚。

言葉を失い,呆然と立ちすくむ私に凪は



「これが,キスの距離。信じてくれた?」



困ったように,何の後悔もなさそうな顔で笑った。

下がった眉が,凪らしい。



「またね,真理。クラスメート,待たせてるから」



凪は出入り口に,足を進める。

ふと,驚いたように凪が足を止めた。
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