溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
もう,お昼か。
案内の方の声と,真上の太陽に息を吐く。
お腹が空いたと,私は意味もなく自分のお腹を見下げた。
大した距離ではなかったけど,珍しいことに変わりはなくて,足もそろそろ限界を訴えている。
「やった」
そう小さく言ったのは真香さん。
真香さんも同じだったんだなと見ると,気付いた真香さんは照れたように笑った。
その真香さんを,水上さんが腕を引いていく。
「もっとゆっくりいこーぜー」
さくさく進む担任達に,適当な森くんが愚痴った。
え,ちょっと……
皆,本当に速い。
真香さんが森くん達の担任に笑って何かを言い,水上さんがそれを追いかけ,堀さんが森くんを引っ張っていく。
あれっと後ろを見ると,やはり千夏くんがいない。
え……?
どこに……迷子?
目を止めたくなるような所は,確かにあったけど……
良く目を凝らすと,遠くの繋がれた犬の前に,千夏くんはしゃがんでいた。
あ。
くろい子ねこ……
私は移動する前に,千夏くんが同じくその子を見ていたことを思い出す。
動物,すきなのかな。
でも……と周りを見渡す。
私なんかの小さな声は届かない所に,もう皆は進んでいた。
真っ直ぐだって,言ってたよね……?
私は迷った挙げ句,皆ではなく千夏くんに声をかけようと決める。
逃げず,逃げられず。
そんな風に話すなら,今なんじゃないかと。
心臓が,嫌に響いていた。