溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
ふっと笑われて私が顔を引き締めると,凪は慈愛に満ちた視線を私に送っていた。



「真理は昔からあんまり笑わないけど,僕の前ではよく笑う。それが嬉しい。真理,もっと笑って? そっちの方がずっと可愛い」



私が跳ねる心を必死に抑えてふいっと顔を反らす。

可愛いとか,平気で言ってしまうから。

笑ったら嬉しいなんて,普通の人は思わないよ。

凪はそんな私を気にぜず,利き手を差し出した。

お互い癖になった,2人の合図。

それは,帰ろうの合図。

私がそう思って手を伸ばすと,その手は,痛くはないけど抗えない力で前方に引かれる。



「いたっ」



小さく悲鳴をあげ目を固くつむると,おでこが丁度凪の鎖骨のした辺りにぶつかった。



「真理,すきだよ」



私は静かに動揺して,息を止める。

なんで……今。

私は何も言ってない。
何かを誤魔化す必要もなかった。

そんなの,凪の意思みたいな…本音みたいな……

凪が小さく息を吸う。
次の言葉の,準備みたいに。

< 12 / 196 >

この作品をシェア

pagetop