溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
「初めてちゃんと話したくらいの時,背の高いイケメンについて聞いたの,憶えてる?」



ふと,迷ったような顔をした千夏くんが,そんなことを言う。

凪の事だ,きっと。

一緒に登下校してる凪に興味を持って,それで……。

だけど,何で今凪の話が……?



「凪のこと,だよ,ね? えっと,何で……?」

「文化祭」

「ぇ」



ドキリと,胸がなった。

凪と文化祭で繋がる出来事なんて,1つだったから。



「……やっぱ,見間違えなんかじゃ,なかったんだ」

「見て,たの……?」



凪が私に……きす,したの。



「……うん。真理の様子変なの,ずっと気付いてて……終わった後探してたら,真香が出てったって。それで,追いかけて…………真理はあの人と付き合ってるの?」



そう,問われると,答えは違う。

でも,だからと言って答える言葉が,すぐには思い付かなかった。

見られたことさえ,まだ受け入れられていないのに。



「ちが,う」



乾いた喉から飛び出したのは,いつかと同じ曖昧な否定。

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