溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
それでも私は,がむしゃらに走り出した。
もうきっと手遅れでも,自分が傷付いてしまうだけでも。
美希を忘れ,制止も聞かず。
鍛えられた自慢の足で,ただ2人を探すためだけに,私は来た道を真っ直ぐ引き返した。
千夏,お願い。
もう少しだけ,私の幼馴染みでいて。
誰かの大事な人になろうとなんて,しないでよ。
どうせ真理は……あの先輩の事が好きなんだよ。
分かってるでしょ?
本当は,最近の行動は。
それに,ようやく気付いたからでしょ?
なのに,何で。
そろそろ,私でもいいじゃん。
なんて……
ー私だって,千夏を好きなままのくせに。
例えこけそうになっても,私はそのスピードを緩めなかった。
千夏,どこなの……?
……
いた,そう思う私の気持ちを遮って
「あの時,真理を追いかけなかったら……気付けなかったかもしれないけど」
聞こえてくる,千夏の声。
さっと住宅に身を隠した私からも見えてしまう,何かを確認するような千夏の顔。
私のそばで,耳障りで嫌なおとがドクンと鳴り続ける。
あの時,あの時……
私は必死に考えた。
そしてその言葉が指すのは文化祭の日だとたどり着く。
あの日……真理は何にも知らないみたいだったけど。
やっぱり何かがあったんだ。
追いかけていく千夏の背中を,1番近くで見ていたのは他でもない私だったから。
どれだけ目をそらしたくても,分かってしまう。
私は,必死に考えた。
考えたって仕方なくても,諦め悪く考えた。
どうしたら今,千夏を,2人を止められるのか。
そしてやっぱり,私は2人を探して戻ってきたことを
「……俺は……真理が好きだ。でも……真理は,あの人が……好きなの?」
強く,後悔した。