溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
「そんなこと言われたって……わからないよっ」
突如鼓膜を震わせた声に,私はビクリと肩を揺らす。
お腹から感情を全て吐き出したような声に,こちらまで感情が波立つ気配。
真理はそんなに大きな声が出せたのかと,その時初めて知って。
私はぱちぱちと目を瞬いて,次には真理の心配をした。
頭しか見えない私と違って,真理の表情を真正面から受け止めた千夏は,それを見てあっけに取られている。
どちらも心配で,どちらもそれぞれ気になる。
私はその場に棒立ちを決め込むしかなかった。
どうしようかと瞬巡しているうちに,さっと目の前で真理が走り去る。
そのまま逃走するなんて思ってもいなくて,私は
「ぇ」
と声を漏らした。
何が……どうなってるの?
私は,私がここに来る前,つまり千夏がその言葉を口にする前の会話を知らない。
変に今,真理をつつくことは出来なくて,呼び止める事も出来なかった。