溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
凪は呼吸と言うにはほんの少し長い息を吐く。

幻滅や諦めを意味するような,ため息ではない。

ただ何かを確かめて受け入れるような,はたまた単なる場繋ぎのようなそれ。

1つ言えるのは,そうすることで,凪が私を助けてくれたのだろうと言うこと。

凪は…私のそばにいるには優しすぎる。



「帰るよ」



凪は今度こそ私の手を包み込んだ。

何故だか私はほっとする。

……凪が,傷ついた顔をしなかったからだろうか。

やさしい。

それが,私には痛い。

まるで,傷口にかける,消毒みたいだ。

決して毒ではないのに,すごく心に染みる。

やっぱり凪は,私には遠いひと。

こんなにも近いのに,誰よりも私から遠い。

少し,沈んだ気持ちになった。

それは後悔に似ていて,自責や懺悔にも似ていた。
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