溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
少し拗ねた声,なのにどことなく楽しそうな声。

カップルかな,なんて私は思った。

姿が見えないのに,よく聞こえるから……

きっと少し前の角を曲がったところを歩いているんだろう。

透き通った大人な声に,私は綺麗な人なんだろうななんて事を勝手に思った。

そんな極普通の好奇心に負けて,道すがらチラリと視線を投げた私は



「……真理?」



思いがけず,バチリと凪の目が合った。



「凪くん?」  



私を見もせずに,凪の隣で親しげに顔を覗き込むのは,やっぱり綺麗な茶髪の女性。

冬の冷気に,すっと心が冷やされていくのが自分でも分かる。

カップルかな,なんてついさっき思った自分が,心にズブリと刺さり込んで。

こんな時,私を呼んだ凪になんと返せばいいんだろう。

直ぐには抜けそうにないなんて,私の恋心が呟いた。
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