溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
「じゃあ,山本さん。僕,この子と帰るので」
「えっ,ちょっと……何で?! 流れ的にもおかしくない?!」
帰りたい気持ちがとても強まってくる。
私は今,ただ立って待っていればいいのか。
それとも凪の知り合いだと挨拶だけでもした方がいいのか。
凪は凪でと断ればいいのか。
山本さんと呼ばれた綺麗な人の言い分が理解できるだけに,私はもじもじと戸惑った。
「おかしいも何も。自宅に帰るだけの僕に,山本さんが勝手に付いてきてたんですよね」
「そっそうかも知れないけどっ仮にも同じ場所で1年以上働いてた仲でしょ?!」
もうっと大きな声を出した山本さんの言葉で,凪と彼女の関係が見えてくる。
バイト仲間,もしくは,せんぱい。
「でもそれも1年も前で,挨拶もしましたよね。親しくもないのに,親しそうにするのももうやめてくれませんか」
凪の腕を取ろうとした山本さんは,凪の拒否に身体を震わせた。
怒りなのか恥ずかしさなのかは分からないけど,私にはとても怖くて。
「あれ,アイスだ。溶けちゃう前に帰らないと……真理,引き留めたままでごめん,行こ」
なんて呑気な凪を,大丈夫なの……? と見つめた。