溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
聞きながら,驚きに目の前を雫が飛んで。
身体がピシリと硬直する。
見上げた先には,何かを決意するような千夏くんの顔があった。
「って,もう,言えないんだ」
「……え?」
困惑が,強い。
唐突で,何を伝えたいのか分からなくて。
額面通りに受け取るなら,つまり。
どういう意味なんだろう。
「真理の事,好きだよ。でも,前と同じかなんて,もう分からないんだ。……真香に,告られて。それから,なんか。一緒にいると変な気分になる」
私は思わず,両手を口に当てた。
驚きと,あと少しで漏れそうだった声を押さえるために。
「俺,そんなに器用じゃないから。2人とも好きなんて,意味わかんないんだよ。真香だってこの前まで,ただの友達だったのに」
何も,おかしな事じゃない。
そばにいた真香さんに,千夏くんは初めて気がついたんだから。
それくらい,真香さんはいつだって魅力的なんだから。