溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
「きっと今から忙しくなる。いいえ,本当はもう既に。
就職でも,進学でも。いつまでもこの家に入り浸ってはいられない」
そこで,お母さんは初めて私に視線を向ける。
「自分の気持ち,ちゃんと固めてないと,凪くんに会えなくなるよ」
それは嫌だ。
なんの飾り気もない,私の素直な気持ち。
「だから,真理達に考える時間と,2人の時間両方をあげようと思ったの。真理はなにか見つけた?」
『好きなんかじゃ…』
「別に,何も」
だって,凪だし。
理由はそれだけで充分。
私は睫を伏せて,一言返した。
お母さんはいつだってアメとムチ。
私を想ってくれてるけど,優しいのか優しくないのか分かんない。
お母さんの話に,どうしよもなく胸がざわつ
いた。
凪が当たり前に来なくなる日々。
今までだってずっとあったはずの,凪に会えなくなる可能性。