溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。

ねぇ凪。

少しでも考える素振りを見せてくれた方が,誠実だと思ったのは,私の間違い?

他人の決めた婚約を,そんなにあっさり受け入れているのはなんで?

凪は私に何も求めないから,私じゃなくても良かったんじゃないかと思うの。

好きなんて嘘っぱち。

そんな人と結婚なんて出来ない。

凪のそんな言葉,聞きたくない。



「あははっ」

「ちょっと!」



私の横を,2人の子供が走り抜けて行った。

驚いて前を見ると,男女の小学生で。

競うように並んで走っている。

つい,思い出した。

凪を見上げ,後ろを歩いていた私と,それを優しく待っていてくれた凪。

全く関係ない小学生にその頃の自分達が重なって,何故かくしゃりと顔が歪んだ。

あの頃に,戻りたい。



「あーぁ。もう着いちゃうね。今日がお休みだったらもっと真理といれたのに…」



学校が近づいて,凪が名残惜しそうな声を出す。

またすぐ会うのに。

その態度すら本音なのか分からないけど,私の胸はきゅっと詰まった。

凪に引き寄せられ,大きな木の影。

凪は全身を使って私を抱き締める。

余すことなく密着して,私の首には彼の首が。

息が耳にかかる。



「ちゃんと,待っててね。迎えに行くまで」



凪はそう囁いて,身じろぐ私を一層強く抱き締めた。



「大好きだよ,真理。僕も待ってるから」


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