溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
あってるけどね。

真理の口から出る不慣れな感じのキスは新鮮で,僕はあっと思い出した。



「ふりだけどね。僕はやらない。代わって貰ったんだ」



真理は恥ずかしそうに言う。

キスシーンを演じさせられるくらいなら,舞台にも出ない。

そう言ったのは他でもない僕。

真理以外と,なんて可能性は1ミリもない。

了承したら白雪姫役の人にも勘違いさせるかもしれない。

たかが,ふりでも。

だから僕が出るのは,前半だけ。

  

「白雪姫の人,逆が良かったよね。多分。凪の王子様なんてかっこ…」

「何?」



照れたような顔をして口を引き結んだ真理は,ざっと俯く。

…言って,くれないか。

真理の格好いいなら,いくらだって聞きたいのに。

…暑くなってきたな。
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