溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。

閑話

「ねぇ真香さん,千夏くんのことまで聞いて良かったのかな。怒られない?」

「いいのいいの。本人は知らないんだから。でも…怒られはするかな,私が。真理は大丈夫,千夏は絶対怒れないから」



それに,と真香さんが続ける。

真香さんは黙って待っている私に



「真理は本気で探しても,相手が誰かたどり着けないタイプだと思うから」



褒めて…る? ない?



「戻ろっか。あと少しだから……この前の先輩,ラストだって言ってたっけ」
 
「うん」

「演目,白雪姫? 何か役やるのかな」

「王子様」

「ふっ……似合,う」



どうして笑うんだろ。

きょとんと見つめると,真香さんは「ごめんごめん」と何故か私に謝った。

でも



「私もそう思う」



私が言えば,真香さんはまた笑う。




「やっぱり,真理はそっちなのか。先輩のこと,よく知ってるね」

「……真香さんと一緒。幼馴染み(こんやくしゃ)だから,話す機会とか知ってることも多いの」




そう言うと,真香さんはくりくりと瞳を丸くした。



「何か変だった?」



言い慣れない幼馴染み(ことば)に,違和感でもあったかなとドキリとする。

だけど,杞憂だと言うように。



「私達も珍しいのに……年の差の幼馴染み,すごい。本当に仲良しなんだ」



感心した反応が返ってきた。



「そうかな」



意味もなく,後ろ髪をくるくると人差し指に巻き付ける。



「そうだよ」



どこか気合いの入った真香さんは



「白雪姫,ちょっと楽しみになってきた! そろそろ戻ろ!」



私を振り返りながら,出入り口へ走った。



「大丈夫,大丈夫。千夏が間に合わなくなるまでに私が……」



引き締まった顔には,妙な力がこもっていた。
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