溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
え…

けれどそれも一瞬で,今度は凪が,必要ない程深く棺に頭を突っ込む。

何が起きたのかさっぱり分からなくて,私は目が乾くくらい見開いた。

ざわっと会場が揺れて,たっぷり数秒後。



「え,今ほんとに…」



誰かの声が一際大きく耳に届き。

ゆったりとした動作で立ち上がり,振り返った凪は。

まるでそうする事が当たり前みたいに,右手を大きくあげて。

完璧なスマイルで,本物の王子様みたいに礼をした。

いつもと違う嘘の笑顔に,私の胸はざわつく。

凪が怒ってるか動揺してる。

焦ってるみたいだった。

今の,絶対何かあったんだ。

何かってやっぱり…

凪がふいに,ニコニコしながら全体を見渡す。

観客は戸惑ったり騒いだりと忙しくしながら,取り敢えず拍手をしていた。
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