溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
血管が浮き出ているのかと思うほど,血の流れを濃く感じ,私は手首を押さえる。

なんか…痛い。

ドクドクと主張の激しい手首に痛みを感じ,私は深く息を吸った。

いつの間にか呼吸が浅かったのだと,首を伝った汗に思う。



「演出だよ演出!」

「だっ…だよね! 凪くんいつも通りだし! 笑ってるし!」



自分達を慰めるような焦った声が前方からした。

凪のファンの先輩たちだ。

いつも通り? あれが?

拍手も出来ず,ただ私だけが膝に手を突き立てて震えていた。

すっと顔を上げて,凪が私の方を向いてピタリと止まる。

何か言いたそうにして,周りを見渡してから唇を噛んだ。

…別にいいよ,凪。


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