溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
凪が避けなかった。

それどころか,飢えた獣みたいに食い付いた。

よほど好きだったか,気になってたのか。

物語の雰囲気に,綺麗な先輩に流されたのか。

恥をかかせない,ただの優しさだったのか。

そんなのはもう,どうでもいい。

だから,いいよ。

焦ったみたいに私を探さなくて。

いいんだよ,いい。

すっと逸らした目に映る身体は,どこも震えていて。

凪…っ…

私は揺れる瞳をぎゅっと閉じた。

凪,なんで凪がキスシーンを演じたの?

凪,なんで女の子のキスに応えたの?

凪の……うそつき。

沢山の言葉が浮かんでは,ドライアイスみたいに消えていった。

凪のバカ。

その一言だけは,今にも口から飛び出てしまいそうだった。
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