溺愛体質な彼は甘く外堀を埋める。
そんなはずはないのに,自分が泣いているような錯覚をして。

私は頬をそっと撫でた。

一歩でも遠くへ。

その一心で,シューズからスリッパへと履き替えた私は歩く。

濡れたアスファルトの上をスリッパで横断すると,流石に靴下が濡れた。



「はあ,はっ」



目的もなく歩いているのに,息が上がる。

ただ急いで,階段を上る。

自分の教室へ。

唇がいつの間にか痛くて,目薬をした時みたいに,海に使った時みたいに。

眼球がしぱしぱと痛んだ。

どおして。

私にはしたことないくせに。

ずっと誤魔化すようなハグばかりのくせに。

やっぱり,JKになったばかりじゃ,中学生と変わらない?

それとも私だから?

今までして欲しかったわけじゃない。

そんなの気まずいだけで,私はされそうになっても全力で逃げたと思う。

でもやっぱり,なんでって思った。

もう何もかもが。

ー悔しい。

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